Appleが6月9日(現地時間)から開催する、毎年恒例の年次開発者会議「WWDC25」。本年も、誰でもオンラインですべてのセッションを無料で見ることができ、最新のソフトウエアやAPIについて学ぶことができます。
同時に、米国・カリフォルニア州クパティーノにあるApple本社「Apple Park」では、およそ2,000人の開発者が世界中から参加し、Appleのエンジニアとのハンズオンなどのリアルな体験も行われる予定です。
私たち一般ユーザーも注目すべき今年のWWDCのポイントについて、5つ紹介していきます。
Apple Intelligence 2.0と、遅れているパーソナライズされたSiri
昨年、2024年のWWDCで華々しく発表したのが、Appleの生成AI「Apple Intelligence」です。
これは言葉の定義の問題ですが、Apple Intelligenceは単一の生成AIモデルを指しているのではなく、iOSなどに搭載するさまざまなAIモデルの「総称」もしくは「ブランドネーム」という位置づけです。
昨年発表したApple Intellingenceは、大規模言語モデル(作文ツール、Siriの文脈理解向上、メールや通知の要約)、画像認識と生成のモデル(Image Playground、Genmoji、Visual Intelligence、クリーンアップ)が中心となっていました。
また、プライバシーやセキュリティに最大限配慮し、できるだけユーザー情報を端末外部に持ち出さないポリシーを持つAppleならではのAI機能として、「パーソナライズされたSiri」があります。
これは、端末内にしかなく、かつ非公開の情報(家族関係、友人関係、今いる場所、今後の予定など)を活用して、Siriがリクエストに応えるというもの。この機能の実装で、これまでの音声アシスタント、すなわち固定のコマンドとデータベースの組み合わせから、生成AIとデータベースの組み合わせへと進化するとみられていました。
しかし、パーソナライズされたSiriについてはまだ登場しておらず、開発が遅れています。今回のWWDC25で改めて、実装のタイミングをアナウンスできるかどうかがまず注目です。
個人的にも、このパーソナライズされたSiriには大きな注目を寄せており、AppleがAI競争のなかで、ユニークな価値を発揮できるかどうかの試金石となっています。
前述のような、高度な個人情報を活かしたAI処理や、画面上に表示されている内容を活用したリクエスト、もしくは画面を直接操作したり、アプリを横断する複合タスクの実行などが期待できます。
Apple Intelligenceの最も身近な入り口として有望視されるのはSiriであり、生成AIのインターフェイスとして、Siriがその役目をきちんと果たすかどうかがポイントとなります。
Vision Pro風の新しいUIに期待
Appleは、iOS(登場当初はiPhone OS)を登場させたころ、人々がタッチスクリーン主体という初のコンピューティングに慣れるようにするため、画面の中にリアルなものを再現し、操作方法を想起させる立体的な表現を多用した「スキュアモーフィズム」を採用しました。
その後、iOS 7が登場した2013年に、新たに「フラットデザイン」して、ユーザーインターフェイスのデザインを大幅に見直しました。
今回、iOSのデザインが見直された場合、iPhoneとしては3回目のデザインテイストの変更となります。
今回採用されると目されているのは、VisionOS風の、ガラスのような半透明なレイヤー構造を織りなすデザイン。今回のWWDC25のロゴも、ガラスのような半透明な表現が用いられているなど、適度な“匂わせ”を感じさせます。
Vision Proのように実空間とのインタラクションは、iPhoneやiPad、そしてMacにはなさそうではありますが、重なりが分かりやすくなる立体的な表現が採用されると、見た目としては大きな変更となりそうです。
また、今回、OSのバージョン番号が年号に変更されることも期待されています。
2025年6月での各OSの番号は、iOS/iPadOS 18、macOS 15、watchOS 11、tvOS 18、visonOS 2と、まさにバラバラ。対応端末が違うとはいえ、過去のWWDCでも、OSを横断的に利用できる機能も数多く存在しており、またOSの数も増えたことで、単純に「分かりにくい状況」になっています。
これが年号で統一され、WWDC25で登場するOS群のバージョンナンバーがすべて「26」になると、前述のような分かりにくさは解消され、共通の機能が使えるのかどうかも一目瞭然になるでしょう。
いよいよIntel搭載Macが賞味期限切れに?
前述の通り、macOSの次期バージョンは「macOS 26」を名乗るようになりそうで、やはり半透明のガラスをモチーフとした、立体的なデザインへと衣替えをすることが期待されます。 ただ、対応する機種に変化がもたらされることが予測されています。
現在のmacOS 15「Sequoia」の対応Macは以下の通りで、依然として数多くのIntel搭載Macをサポートしていました。
- MacBook Pro…2018年モデル以降
- MacBook Air…2020年モデル以降
- iMac…2019年モデル以降
- iMac Pro…2017年モデル
- Mac mini…2018年モデル以降
- Mac Pro…2019年モデル以降
しかし、今回発表されるとみられる新しいmacOSでは、2019年以前のMacのサポートがなくなる可能性が指摘されています。MacBook Airについては、2020年のIntel搭載モデルのサポートがなくなり、Appleシリコン(Mシリーズ)搭載モデルのみの対応となりそうです。
実際、Apple Intelligenceやその他の処理において、AppleシリコンのパフォーマンスがOS全体、あるいはアプリの動作で重要になってくるなかで、大容量のメモリー空間が必要などの特別な用途がない限り、ほとんどの人にとってIntelチップ搭載のMacを使い続けるメリットがなくなっている状況です。
Vision Proの拡張はあるのか
Vision Proは、2024年2月に発売した空間コンピューティングデバイスで、昨年のWWDC24でもVisionOS 2が登場するなど、進化を続けています。とはいえ、デバイスの価格が3499ドル(日本では599,800円)と高額であることから、iPhoneやiPad、Apple Watchのような「主要デバイス」としてのポジションを確保するには至っていません。
しかし、1年でVision Pro向けのネイティブアプリが2,500本以上(2024年8月のApple公式の数字)まで揃ってきたことは、他のVRゴーグルのプラットフォームと比較して、大きな成果を挙げている、と見ることができます。
このアプリの内訳を見ると、他のプラットフォームではゲーム主体ですが、Vision Pro向けのアプリは生産性やビジネスに関わるアプリも充実しつつあり、より汎用的な次世代コンピュータとしての存在感を発揮しているといえます。
WWDC25でも新バージョンOSの登場が期待できますが、まだまだアップデートは小幅なものになるのではないか、と考えられます。
その中で、ゲーム対応やApple Intelligence対応、iPhoneやiPad、Macとの開発リソース共有など、その本数増加が加速するのか、注目しています。
アプリ開発環境にもAIコーディング
WWDCは開発者イベントであり、現在ソフトウェアエンジニアの関心事には、「AIの導入にどう向き合うか?」という非常にセンシティブな状況があります。
テクノロジー企業を含め、各社でソフトウェアエンジニアのレイオフが進行しており、歴史的に見ても、プログラミング人材にとって最も厳しい夏を迎えているといってよいでしょう。
その背景には、「Vibe Coding」といわれるプログラミングへのAIの導入、すなわち人が指示を出しながらAIが主体となってコードを書く手法が確立しつつあります。
Appleは、2025年5月にも、AI新興企業でVibe Codingでも注目されるAnthropicと提携したとBloombergが報じており、Appleのアプリ開発ツールであるXcodeに、AnthropicのClaude Sonnetモデルを統合すると予測されています。
この場合、料金はどうなるのか、プライバシーやセキュリティの問題をどう扱うのかなど、不透明な点が数多くあり、今回のWWDC25での大きな関心事となっています。
ハードウェアはすぐに出荷されないが登場する?
Appleは今回のWWDCで、すぐに出荷されるハードウェアを発表しない見通しです。しかし、まったく新しいハードウェアを発表する場合、先に開発者に披露し、6カ月以上先となる発売に向けたアプリ開発を促すことになるでしょう。
そのため、何らかの新しいハードウェアやプラットフォームについて、「プレビュー」という形で開発者に見せておくことは考えられます。
候補となり得るのは、廉価版のVisionOSデバイスや、HomePodの次世代モデルなどが考えられます。そういったチラ見せがあれば、開発者だけでなく、消費者も大いに盛り上がることになるのではないでしょうか。
筆者は、WWDC25を現地から取材します。これらの注目ポイントを含めて、レポートをお届けしたいと思います。お楽しみに。