スバルのSUV「フォレスター」の新型が生まれ故郷の日本でデビューした。メカニズムではストロングハイブリッドの追加がニュース。一方でプラットフォームは先代と同じで、ボディサイズはほとんど変わらないが、エクステリアは大きく変わった。激変の理由を考えながら、新型のデザインを紹介していこう。
アメリカンSUVを思わせる堂々とした顔つき
通算6代目となるスバルの新型「フォレスター」は、伝統の水平対向エンジンと左右対称AWDを受け継ぎながら、「クロストレック」に続き、トヨタ自動車の技術を活用したハイブリッドシステムを採用したことが話題になっている。
一方でプラットフォームは先代と共通であり、パッケージングは変わっていない。2,670mmのホイールベースは不変であり、ボディサイズは全長4,655mm、全幅1,830mm、全高1,730mmと、3方向とも15mm拡大したにすぎない。
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新型「フォレスター」はストロングハイブリッド車の「Premium」「X-BREAK」と1.8Lターボエンジンの「SPORT」の3グレード展開。各グレードで高度運転支援システム「アイサイトX」搭載の「EX」が選べる。価格はSPORTが404.8万円or419.1万円、X-BREAKが420.2万円or447.7万円、Premiumが448.8万円or459.8万円。スバルによるとグレード展開は「上下」の関係ではなくキャラクターを分けた形のものであるとのこと。上質なPremium、アウトドアのX-BREAK、スポーティーなSPORTと覚えるとよさそうだ(写真はX-BREAK)
しかしながら、エクステリアデザインは大きく変わった。なかでもフロントマスクは激変と呼べるレベルだ。
先代フォレスターは他の多くのスバル車も取り入れていた「ヘキサゴングリル」に、点灯時に「コ」の字型に光るヘッドランプの組み合わせを採用していた。両者の配置は離れていた。
6つの頂点を持つヘキサゴングリルは、ロゴマークの「六連星」同様、スバルの前身である富士重工業が6つの会社の合併により生まれたことを象徴していた。「コ」の字型ランプはノーズに搭載する水平対向エンジンのピストンを表現していたという。
ところが新型では両者が一体化した。より具体的に言えば、グリルが大型化してヘッドランプとつながった。アメリカンSUVを思わせる、堂々とした顔つきだ。他のスバル車とのつながりは薄れたが、力強さは格段にアップした。
それでいて、グリルとランプの段差はなくなっている。中身の構成は複雑だが、面としてはスムーズになったので、モダンになったとも言える。
サイドビューもメリハリが強まった。先代ではやや煩雑に感じたドアまわりのキャラクターラインが整理されたので、フェンダーの張り出し感が強まった。サイドウインドー下端がウエッジシェイプを描かず、ほぼ水平になったので安定感も増した。
しかも、フェンダーアーチのラインやサイドシルのプロテクターのアクセントなど、各所にヘキサゴンの造形を織り込むことで、全体としての統一感も出している。
「レヴォーグ」とは明らかに違うデザインテイスト
それだけに、ちょっと気になったのがリヤビューだ。
左右のコンビネーションランプをつないで高い位置に置き、ボディ下部の厚みを強調するのは最近のSUVでおなじみだが、リアコンビランプの上下が柔らかいカーブで描かれてあって、力強いフロントやサイドと釣り合いが取れていない感じがした。
低い位置にあるリアバンパーはメリハリのある造形なので、これに合わせてもう少しエッジを効かせてもよかったのではないだろうか。
リアでもうひとつ気付いたのは、テールゲートの角度が垂直に近いところ。この点は先代と似ていて、最近目立つクーペ風SUVとは一線を画している。収容能力を大事にしていることが伝わってきた。
ボディカラーは単色11色、ブラックルーフの2トーン4色の計15種類。このクラスのSUVとしては、かなり豊富なカラーバリエーションだ。
しかもハイブリッドに設定する「Premium」と「X-BREAK」、ターボエンジンに用意する「SPORT」の3つのグレードに合わせて、アクセントカラーを使い分けている。
ホイールはプレミアムがシルバー、Xブレークがブラック、スポーツがカッパーと3タイプともに違うし、Xブレークはライトグリーンをグリルに入れ、スポーツは前後バンパーやサイドシルにカッパーを配している。
アウトドアツールを思わせる色使いだが、実車を見ると派手すぎず、絶妙なコーディネートだった。スバルはエンジニアやデザイナーにアウトドアを楽しむ人が多いそうで、趣味のよさは実体験に基づいたものなのだろう。
全体的に見て、スバルは「レヴォーグ」や「インプレッサ」といった車種と、フォレスターに代表されるSUVのデザインを分けようとしているのではないかと感じた。
日本では販売されない可能性が高いものの、北米で最近発表された「アウトバック」の新型も、迫力のあるフロントマスク、水平基調で台形のホイールアーチを強調したサイドビューなど、新型フォレスターに通じる部分が多い。
スバルは北米で根強い人気を持つ。乗用車としての安全性や快適性と、SUVのオフロード性能を高次元で両立している点が支持されているようだ。押し出しの強い顔と踏ん張り感が増したサイドビューは、その評価に応えた造形と言えそうだ。
フロントシートが左右非対称の理由
インテリアもまた、面がシンプルになり、水平基調になった。パネルの分割は整理され、色使いが落ち着いたためもあり、上質感がアップしている。それでいてエアコンルーバーなどにはヘキサゴンを織り込んでいるので、SUVらしさも感じる。
インパネのセンターには、レヴォーグなどでおなじみの縦長ディスプレイが置かれる。おかげでこの部分はスイッチが減ってスッキリした。できればステアリングのスイッチも整理してほしいところだ。
フロントシートはリアとのコミュニケーションを重視して、シートバックを左右対称とせず、中央側がなで肩になっている。座り心地に違和感はないので、好ましい配慮だと思った。
前後席間のアクセス性を高めるシートデザインを採用。素材は「Premium」に撥水ファブリック/撥水トリコットやナッパレザー/ウルトラスエード、「X-BREAK」に撥水ポリウレタン/合成皮革、「SPORT」にウルトラスエード/合成皮革を使って差別化している
シートに座ってもうひとつ気づいたのは開放感だ。インパネの高さが抑えられていることに加えて、サイドウインドー下端がほぼ水平なので、車両感覚がつかみやすい。歴代スバルの美点はこの新型フォレスターにも受け継がれているというわけだ。
インテリアコーディネートは3つのグレードで作り分けていて、素材からして変えている。上下関係ではなく多様性を念頭に置いたバリエーションに感心した。
受注好調! ガソリン車なら納車は夏ごろ?
モデルチェンジにともなって価格も上昇し、エントリーグレードでも400万円を超えてしまった新型フォレスターだが、インテリアのクオリティを見れば高いという印象は薄れるはずだし、エクステリアはSUVらしさにあふれていて、個人的にも魅力的に映った。
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5月13日にスバル広報に聞いたところによると、新型「フォレスター」の受注状況は「かなり好評」であるとのこと。ハイブリッドとターボのどちらも計画以上の売れ行きだが、ハイブリッドモデルの注文が特に多く、納期は1年くらいになりそう、とのことだ。ターボエンジン搭載の「SPORT」であれば2025年夏くらいに届く見込み。フォレスター初ということでどうしてもハイブリッドに注目が集まりがちだが、グレード展開は上下関係ではなく横並びであり、「SPORTも非常にいいクルマ」(スバル広報)なので、ぜひターボエンジン搭載車にも注目してみてほしい、とのことだった
走りについてはハイブリッドに興味を抱くユーザーが多いだろうが、個人的には伝統のターボエンジンを残してくれたことが嬉しい。ライバルの中でも独自のキャラクターと言えるので、スポーツ以外のグレードも設定してもらいたいと思った。